WBC2023(10)ベネズエラ代表 選手名鑑


 直近2大会連続で決勝トーナメント前に敗退している南米の雄、ベネズエラ。ロースターの大半がメジャーリーグ経験者で、ラインナップにもMLB球団のレギュラーが揃う。過去最高のベスト4以上は至上命題。
 なお、今シーズンを最後に引退するミゲル・カブレラも選ばれた。スポーツニュースで報じられたクレイトン・カーショウが出場辞退せざるを得なかったのと全く同じ保険の問題を抱えた選手の1人だが、デトロイト・タイガースが金銭的リスクを負う英断をしてくれたおかげで晴れて出場できることになった。

▼目次 – ベネズエラ代表選手一覧
【1.投手】
【2.捕手】
【3.内野手】
【4.外野手】
【5.監督・コーチ】
【6.参加できなかった有力選手】

【投手】
43 カルロス・ヘルナンデス(カンザスシティ・ロイヤルズ)
 160km/hに迫るターボシンカーを投げる剛球右腕。2020年にメジャーデビュー。ロイヤルズの先発ローテ入りを期待されていたが、昨季は0勝5敗・防御率7.39に終わり評価が急落。年々コントロールが悪くなっており、リリーフに完全に転向する可能性も。
44 ヘスス・ルザード(マイアミ・マーリンズ)
 メジャーでは珍しいペルー生まれの先発左腕。ベネズエラ人の両親の元ペルーで生まれ、1歳の時にマイアミ近郊の町に移住した。本人は”ベネズエラにルーツを持つアメリカ人”だと認識している。
 アスレチックスの表ローテを担うと期待されたトッププロスペクトだったが、ビデオゲームをしている最中に利き手小指を骨折する失態を犯し、復帰後も低調なパフォーマンスだったためトレードに出された。昨季は移籍先のマーリンズで18先発・4勝7敗・防御率3.22と成長を見せた。今季はフルシーズンの活躍を望まれている。
45 ジュリアス・チャシーン(FA)
 4度の2桁勝利を挙げた経験を持つが、近年はリリーフ専任のベテラン右腕。35歳。昨季は防御率7点台に終わり、弱小ロッキーズでも契約を見送られ現在フリーエージェント。
 WBCは3回目の選出。
46 ホゼ・アルバラード(フィラデルフィア・フィリーズ)
 100マイル超の高速シンカーが代名詞の豪腕リリーフ左腕。デビュー以来、球は速いがノーコンと言われ続けてきた。だが昨シーズン途中にロブ・トムソン監督代行に交代後リリーフ陣の起用法が明瞭になり、球威をそのままに制球力が改善。メジャー6年目にして初めてセットアップマンを任され期待に応えた。
49 パブロ・ロペス(ミネソタ・ツインズ)
 速球はメジャー平均レベルだがシンカー気味に落ちるチェンジアップと優れた制球力が光る先発右腕。昨季初めて通年先発ローテを守り切り10勝・防御率3点台をマークした。
 開業医の父と病理学者の母を持ち、自身も高校を飛び級で卒業後に医学部で学んだ秀才として知られる。
54 マーティン・ペレス(テキサス・レンジャース)
 昨季メジャー11年目にして初めてオールスターに選出され、キャリア最高の成績を残した先発左腕。メジャーデビューが若かったのでまだ32歳。ゴロ打たせの技術が名人級になりつつある。
56 シルビーノ・ブラーチョ(レッズ傘下AAA)
 コントロールに優れたリリーフ右腕。19年にトミー・ジョン手術を受けてから苦難のシーズンが続いている。
57 エデュアルド・ロドリゲス(デトロイト・タイガース)
 レッドソックスの先発ローテで投げ昨季タイガースにFA移籍したサウスポー。5年7700万ドルの契約初年度の昨季はシーズン途中に謎の失踪、半分ほどしか試合に出られず期待を裏切った。
58 エンドリス・ブリセニョ
 レンジャー・スアレスの代役で代表に選ばれた細身のリリーバー。最高でA+までしか到達できず、現在は独立リーグに所属している。
59 アンドレス・マチャド(ナショナルズ傘下AAA)
 一昨年に4年ぶりにメジャーに返り咲いてから登板数を重ねているリリーフ右腕。平均93マイル(150km/h)のファストボールの投球割合が高く、豪速球系のピッチャーが揃うベネズエラ代表の中では使いづらいか。
60 ダーウィンゾン・ヘルナンデス(オリオールズ傘下AAA)
 長所と短所がハッキリしている荒れ球リリーフ左腕。平均155km/hのファストボールを投げる。メジャー4年で85.1イニング・84与四死球・133奪三振の数字が示す通り、三振奪取能力は高いもののコントロールが悪すぎる、典型的な磨かれていない原石のような投球をする。昨季はマイナー暮らしが長く、2023年の年明けにDFA。オリオールズ傘下のAAAから再スタートを切る。
65 ホゼ・キハダ(ロサンゼルス・エンゼルス)
 大谷の同僚のリリーフ左腕。メジャー4年目の昨季はキャリアハイの42試合に登板、勝ち試合で投げることも多く3セーブを挙げた。
 以前から95マイル(153km/h)のフォーシームが全投球の7割を占める速球メインのタイプだったが、昨季は実に85%にも及んだ。
66 ホゼ・ルイーズ(シカゴ・ホワイトソックス)
 平均97マイル(155km/h)、最速100マイル超のファストボールで押すパワータイプのリリーバー。今季がメジャー7年目。制球力を磨いてそろそろ勝ちパターンで使われるピッチャーになりたい。
77 ルイス・ガルシア(ヒューストン・アストロズ)
 ゆりかご投法でおなじみだったアストロズの先発右腕。2021年に初めて2桁勝利(11勝)を挙げると昨季は15勝をマーク。先発ローテの立場を強固なものにした。
 今季から導入が決まっているピッチクロックの影響で、始動のタイミングが不確かなゆりかご投法は事実上禁止になった。春季トレーニングで試している新フォームのメカニクスは今のところ問題ないようだ。
37 エマニュエル・デヘスス(マーリンズ傘下AAA)
 ヘルマン・マルケスの代替選手として選ばれた左腕投手。レッドソックス傘下でキャリアをスタートし、今季は3球団目のAAAで開幕を迎える。
 東京オリンピックのベネズエラ代表で出場していた。WBCは初だが、メジャーで実績の多い投手が揃うチームにあって出番はあまりないかもしれない。
【捕手】
13 サルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)
 一昨年に大谷を退けてホームラン王になったベネズエラ産キャッチャー。フリースインガーであることと守備面ではフレーミングに難があること以外はハイレベル。WBCには3回目の出場となる。
16 オマー・ナルバエス(ニューヨーク・メッツ)
 もとは打撃が良くて守備が悪かったが、近年その評価が逆転してきているキャッチャー。2019年に22本塁打を放った打撃は鳴りを潜め、昨季はOPS.597に喘いだ。守備は大きく改善したフレーミングをはじめ守備指標ではメジャー平均を上回っている。2021年にオールスター初選出。
28 ロビンソン・チリノス(FA)
 年齢による衰えが顕著な38歳のベテラン捕手。打撃型タイプだがここ3年で打撃成績が落ち出場機会が減少。今大会の代表入りもペレスとナルバエスを起用するはずで、チームを精神面で支える役割が中心になりそう。
【内野手】
0 アンドレス・ヒメネス(クリーブランド・ガーディアンズ)
 フランシスコ・リンドーアの交換相手の1人としてメッツからガーディアンズに来た有能内野手。昨季は開幕からセカンドのレギュラーを掴むと走攻守すべてでチームに貢献。オールスターに選出され、ゴールドグラブ賞にMVP投票では6位の票を集める大躍進のシーズンとなった。また、フォアボールは少ないがア・リーグトップの25デッドボールを稼いで高出塁率(.371)を確保した。
1 ルイス・レンヒフォ(ロサンゼルス・エンゼルス)
 内野全ポジションを高いレベルで守れるユーティリティ。昨季は同僚のデービッド・フレッチャーの長期離脱で出場機会を増やし、期待以上の17本塁打を放ち居場所を確保した。
2 ルイス・アラエス(マイアミ・マーリンズ)
 メジャーで最も三振しない昨季のア・リーグ首位打者。セカンドが本職だが一塁、三塁も守れる。昨季は守備位置が固定されない中ハイアベレージを維持する離れ業でアーロン・ジャッジの三冠王を阻止した。
 オフに同じベネズエラ代表のパブロ・ロペスら3人とのトレードが成立し、今季からマーリンズでプレーする。
7 エウヘニオ・スアレス(シアトル・マリナーズ)
 昨季までメジャー通算224本塁打の長距離砲。低打率だが2019年に49本、直近でも2年連続で31本を放っている。サード専任だが、チーム事情でショートに回った21年は攻守で崩壊した。
10 エデュアルド・エスコバー(ニューヨーク・メッツ)
 小柄だがパンチ力がある内野手。打力とユーティリティ性が高いのでトレードの引き合いが多い。二遊間とサードが中心だがサードはあまり得意ではなく、サードでの出場機会が多かった昨季は守備指標が悪化した。バッテリーも含め9ポジションすべて守った経験あり。
14 グレイバー・トーレス(ニューヨーク・ヤンキース)
 大谷の新人王の年に3位の得票を集めたヤンキースの元ショート。ポスト・ジーターを期待されたが守備難に陥り、それが打撃のリズムにも影響。昨季はセカンドに転向し好守両方で復調した。
 代表チームにはアルトゥーベを筆頭にセカンドが本職の実力者がひしめき、どのような使われ方をするか不透明だ。
24 ミゲル・カブレラ(デトロイト・タイガース)
 今季いっぱいで現役引退を表明している殿堂入り確実な元スラッガー。WBCは第1回大会からすべて出場している。
27 ホゼ・アルトゥーベ(ヒューストン・アストロズ)
 首位打者3回、オールスター7度選出のメジャーを代表する二塁手。昨季も打率.300・28本塁打と強打の小兵選手ぶりは健在。ただし守備指標は悪化傾向にある。
15 エルナン・ペレス
 地味だが内外野すべてを高いレベルで守れるユーティリティプレイヤー。2010年代後半にミルウォーキー・ブリュワーズのレギュラーだったが近年は出場機会が減り、昨季はメジャーに上がれなかった。
【外野手】
6 デービッド・ペラルタ(ロサンゼルス・ドジャース)
 メジャー屈指の苦労人として知られるベテラン外野手。2018年に30本塁打を放っているが、その他のシーズンで20本以上打った年がなく、昨季は180打席に立ち0本に終わった。一方でレフトの守備は若い頃より安定感が増した。取り立てて脚が速いわけではないが、リーグ最多三塁打を2度記録している。
25 アンソニー・サンタンダー(ボルティモア・オリオールズ)
 ルール5ドラフトでオリオールズに入団、レギュラーを掴んだ外野手。昨季はじめてケガなくフルシーズンをメジャーで過ごし、キャリア最多の152試合出場・33本塁打をマークした。
42 ロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)
 ヒザの大怪我から復帰した球界を代表する若手外野手。新人王にオールスター選出3回、シルバースラッガー賞2回を獲得している。それでもハイシーリングな才能からすると、技術面(+精神面)でまだまだ伸びる余地がありそうだ。
 ブレーブスでは13番をつけているが先輩(サルバドール・ペレス)に譲り、代表では42番にアップグレードした。
【監督・主なコーチ】
監督 オマー・ロペス(ヒューストン・アストロズ 一塁ベースコーチ)
 1977年生まれの比較的若い監督。ベネズエラのカラボボ出身。マイナーリーグ時代はサードを守っていた。
 選手生活を終えた1999年からアストロズの組織に入り、2020年にメジャーの一塁ベースコーチに昇進した。マイナーでの監督経験が豊富なため問題なく代表チームを指揮するだろう。
ベンチコーチ カルロス・メンドーサ(ニューヨーク・ヤンキース ベンチコーチ)
 日本人の間の知名度は低いが、若干40歳でヤンキースのベンチコーチに抜擢されたやり手のコーチ。マイナーで13年プレーしたがメジャー経験はなく、外野手だったにも関わらずヤンキースの内野コーチに異例の就任。その後2019年のオフにベンチコーチに抜擢された。
 21年のスプリングトレーニング中に心臓の手術を受けたアーロン・ブーン監督の代役で一時指揮を執った。また、昨シーズン終了後にはホワイトソックスの監督候補に挙がった。近いうちにメジャーの監督に招聘されるだろう。
一塁ベースコーチ ルーグラス・オドゥール(ガーディアンズ傘下AA監督)
 クリーブランド・ガーディアンズ傘下のマイナー組織で指導者として活動している元内野手。メジャー経験は無し。
 名前からお察しの人もいるであろう、あのルーグネッド・オドゥールの親戚で、叔父にあたる。
【参加できなかった有力選手】
ヘルマン・マルケス(コロラド・ロッキーズ)
 メジャー8シーズン目を迎えるロッキーズのエース。2月中旬にハムストリングを痛め代表辞退となった。幸い軽傷だったらしく開幕から出場できる見通し。
レンジャー・スアレス(フィラデルフィア・フィリーズ)
 安定感抜群のピッチングを展開するフィリーズの先発左腕。2021年に100イニング以上を投げ驚異の防御率1.36をマークすると、昨季はレギュラーシーズンで10勝7敗・防御率3.65と期待に応え、初めてのポストシーズンでは5試合を投げて2勝1セーブ・防御率1.23と獅子奮迅の働きをした。
 WBCには代表チームに合流していたが、本選直前に左前腕の張りがあり、大事をとってWBCでは投げないことになった。昨シーズンはポストシーズンで先発・リリーフ問わず起用され登板過多であったうえ、デビュー時は故障で投げられない時期が続いた選手でもあるため、フィリーズの判断は致し方ないと言えるだろう。
ミゲル・ロハス(ロサンゼルス・ドジャース)
 ドジャースでメジャーデビュー後にマイアミ・マーリンズで成長し、今季古巣に戻ってきた遊撃手。天性のリーダーの資質を持ち、マーリンズではキャプテンを務めた。
 ドジャースでは正ショートは期待のギャビン・ラックスに譲り、ロハスはセカンドに回る予定だったがラックスが春季トレーニング中にヒザに大ケガを負い今季絶望に。熟考の末、ショートとして調整を優先するため代表辞退を決めた。
ブラスダー・グラテロル(ロサンゼルス・ドジャース)
 マエケンとのトレードでドジャースに所属する豪腕リリーバー。102マイルの高速シンカーは凄いが頼りがち。WBCに意欲を示していたが、クレイトン・カーショウが出場辞退したのと同じく保険の問題で出場不可となった。

by【MLB名鑑.com専属コラムニスト】デッドボーラー