WBC2023(5)オランダ代表 選手名鑑


 過去2大会連続でベスト4のヨーロッパ最強国。カリブ海に浮かぶキュラソーやアルバ出身の個性豊かな野手を中心に打ち勝つ野球をしてきた。
 今年も11年2億8000万ドルの超大型契約を結んだザンダー・ボガーツを筆頭に打線は強力。ただ守備面は二遊間を本職にしてきた選手が多くポジションによっては足枷になる選手も出てくるか。投手力はかなり不安で、30代後半のシャイロン・マルティスをいまだに招集せざるを得ないところが物語っている。また投打に限らず以前より若手有望選手が減ってきたのも気がかり。

▼目次 – オランダ代表選手一覧
【1.投手】
【2.捕手】
【3.内野手】
【4.外野手】
【5.監督・コーチ】
【6.参加できなかった有力選手】

【投手】
0 デレク・ウエスト(アストロズ傘下AA)
 ヒューストン・アストロズの2Aに所属する有望株。フロリダ生まれ。最速99マイルに達するファストボールが強みである反面、制球に苦労している。
 また、大きなケガが多いせいで年齢のわりに経験不足なのが今後のキャリアに不安を残す。トミー・ジョン手術とヒザの故障で2年ブランクがあり、プロ入り前もバスケットボール中のケガのため大学ではジュニア(3年生)になるまで試合に出られなかった。
 少年時代からヤンキースファンでマリアーノ・リベラがお気に入りだったため、カットボーラーになりたい願望を持っている。
16 ラーズ・ハイヤー(HCAW/オランダ)
 オランダ本土出身、2010~14年にシアトル・マリナーズのマイナーで投げていた先発右腕。2015年に帰国して以来オランダリーグで支配的なピッチングを続けている。今回の代表のエースか。
20 マイク・ボルセンブローク(ハイデンハイム/ドイツ)
 マイナーリーグで3年プレー経験のある身長203cmの大型右腕。オランダ本土で生まれ、野球留学でアメリカの高校と短大に通ったのちドイツ・ブンデスリーガでプレーしようとしたがドラフト指名されたことで再渡米を決断。2008~10年までプレーし最高位はシングルAだった。その後はドイツ国内リーグなどで野球選手を続けている。
29 エリック・メンデス(ダイヤモンドバックス傘下A)
 アルバ出身の23歳のリリーフ右腕。2018年からアリゾナ・ダイヤモンドバックス傘下で投げているが2年連続してシングルA止まりで、昨季はストライクを取るのに苦戦しておりメジャー昇格は厳しいか。
32 ジェイデン・エスタニスタ(フィリーズ傘下Rk)
 キュラソー出身の細身のリリーフ右腕。2019年オフに国際FAでフィリーズと契約、21年からルーキーリーグで投げている。一応リリーバーだが先発やロングリリーフでも登板している。
33 ケビン・ケリー(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 キュラソー出身のリリーフ右腕。33歳。オクラホマ州の短大に留学したがドラフト指名されずオランダ国内リーグに渡り、10年近く活躍している。
37 トム・デブロック(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 前回のWBCで好投した元マイナーリーガー。全盛期は過ぎたが大柄な体格から140後半~150km/hの速球を投げ込む。マイナーリーグに行く前、楽天イーグルスが育成枠で獲得しようとしたことがあった。
 ここ何年かは毎年故障で満足に登板できていないが今大会も代表に選ばれた。健康なら先発登板も?
39 シャイロン・マルティス(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 2006年のWBCメンバーで今回4度目の代表入りとなった元メジャーリーガー。2008・09・13年にメジャーで投げ、特に09年は先発ローテーションに入って15試合に登板したが、翌年以降はチャンスに恵まれずメジャー定着はならなかった。
 マイナーをDFAになったあとは独立リーグを経て母国オランダリーグに加入。3年間で11勝1敗・防御率1.21と圧倒。
41 ライアン・ハッチンソン(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 一昨年からオランダ国内リーグで投げている26歳の先発左腕。オクラホマ州の大学へ野球留学したがよく打たれ、オランダ本土でプレーすることに決めた。
45 J.C.スルバラン(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 ホアン・カルロス・スルバラン。高校生の時にアメリカに野球留学しドラフトでプロ入りし、最高位はトリプルAまで到達した。
 2018年から母国オランダリーグに活動の場を移すと毎年活躍し、一昨年に最優秀防御率のタイトルを輝いた。昨季も好成績を残しているが、この冬参加したニカラグアのウィンターリーグで大炎上しており、コンディションが心配。
51 ディラン・ファーリー(アムステルダム/オランダ)
 オランダ本土出身のガタイが良いリリーフ左腕。現在アメリカのミズーリ州の短大に野球留学中。ドジャースのアレックス・ベシアに似た投げ方をする。
55 フランクリン・バンガープ(アメリカ独立リーグ)
 2021年にマイナー球団をリリースされ、昨季からアトランティック・リーグ(独立リーグ)でプレーしているリリーフ右腕。オランダ領のシントマルティン島出身。ドミニカの高校を経てフロリダ州の大学へ進学し、ドラフトに掛かり最高AAまで昇格した。
58 アントワン・ケリー(パイレーツ傘下Rk)
 アルバ出身の実践向きリリーフ右腕。2021年からピッツバーグ・パイレーツのルーキーリーグで投げている。21年の最初の数試合は制球が定まらなかったがその後は安定し、昨季は好成績を収めた。小柄だが150~155km/h台を投げ、カーブを武器に打ち取る。予想より早いメジャー昇格があるかも?
99 ウェンデル・フローラヌス(シバオ/ドミニカ共和国)
 キュラソー出身のジャーニーマン。マイナーリーグでのプレー経験の他、カナダ、メキシコ、ベネズエラ、オランダのプロリーグで投げたことがあり、現在はドミニカ共和国のリーグに所属している。
【捕手】
14 チャドウィック・トロンプ(アトランタ・ブレーブス)
 メジャーでも長打力をちょくちょくアピールしている打撃型捕手。守備力を高めて今後のオランダ代表を引っ張っていってもらいたい存在だ。
 ”チャドウィック”は何かの本に出てきた登場人物から拝借して名付けられた。
21 ダシェンコ・リカルド(キュラソー・ネプチューンズ/オランダ)
 3度目のWBC出場になるベテラン捕手。打撃はあまり期待できないが守備力は高くキャッチャーとしての資質を備えている。過去2大会は正捕手だったが今回はトロンプのバックアップになると予想。
26 シスナーフ・ループストック(アムステルダム/オランダ)
 アルバ出身の打撃型捕手で、2013~19年までインディアンス傘下でプレーしていた。打撃は粗さが目立つものの四球を多く選び長打も打てるが、守備面が悪く特にパスボールが絶望的に多かった。21年からオランダ本土のリーグに所属し打ちまくっている。
【内野手】
2 ザンダー・ボガーツ(サンディエゴ・パドレス)
 今年のストーブリーグを盛り上がらせたアルバ出身の大物遊撃手。レッドソックスで10年プレーした昨季オフにオプトアウト(期間中に契約を破棄してFAになれる権利)を行使し、11年2億8000万ドルの巨額契約を結んだ。
 年代が近いショートのフランシスコ・リンドーアやカルロス・コレアなどに比べて守備の評価が低く、30代前半のうちにサードへ転向すると予想されてきた。だが本人はショートへ強いこだわりを持っており、昨季は守備指標を大きく改善させネガティブな声を黙らせた。
 ボガーツは率先してコミュニケーションを取るタイプではなくそれを批判されたこともあったが、英語とスペイン語、オランダ語、パピアメント語(アルバとキュラソーで話されているポルトガル系の言語)を話せる。
3 リッチー・パラシオス(クリーブランド・ガーディアンズ)
 2022年4月にメジャーデビュー、今季は飛躍の年になりそうなクリーブランド・ガーディアンズの有望株。母親がキュラソー出身、ニューヨーク生まれで2018年ドラフト3巡目でプロ入りした。肩の大ケガとコロナのせいで丸2年間プレーできなかったが復活した。
 優れた選球眼と走力が魅力のリードオフマンタイプ。WBCでも上位打線を担うだろう。ポジションは二遊間だが守備はイマイチで、センターの方が向いていると言われている。
7 ジョナサン・スコープ(デトロイト・タイガース)
 キュラソー出身の現役メジャーリーガー。MLBの弱小球団のセカンドを歴任していた。毎年20本前後を安定して打っていたが昨季は不調、これからのメジャー契約に黄信号が灯っている。
9 ディディ・グレゴリアス(サントゥルセ)
 メジャーリーグでプレーできるか瀬戸際のベテラン。メジャーに上がりたての頃はショートの守備を評価され”ディディ・ディフェンス”と名付けられた華麗な守備を見せていた。ヤンキース時代には長打を打てるようになりコンスタントに20本塁打を記録していたが近年急激に衰え、昨季はシーズン途中に解雇され今季メジャー契約を結ぶ球団は現れていない。
9 アンドレルトン・シモンズ
 言わずと知れた名ショート。通算4回ゴールドグラブ受賞。ここ何年かは満足にプレーできていないが、WBCでは通算打率.339・OPS.889とボガーツやスコープ弟よりもよく打っている。
13 ジェレミ・プロファー
 ジュリクソン・プロファーの弟。
15 シャロン・スコープ(アムステルダム/オランダ)
 ジョナサン・スコープの兄。トリプルAに昇格した年は4年あったがメジャーには上がれなかった。
40 ザンダー・ウィール(アメリカ独立リーグ)
 運悪くメジャーリーガーになれなかったホームランバッター。テネシー州生まれのオランダ系アメリカ人で、大学は超強豪バンダービルト大でプレーした。ミネソタ・ツインズに入団後2019年にトリプルAで24本塁打を放ったが呼ばれず、コロナ明けの21年に大腿四頭筋のケガをきっかけにDFAとなった。
 昨季はアトランティック・リーグ(独立リーグ)でリーグ2位の32本塁打を記録した。なお、1位は今季SBホークスに新加入のコートニー・ホーキンスで、ダントツの48本を打った。
【外野手】
4 ウラジーミル・バレンティン(シバオ/ドミニカ共和国)
 NPB単一シーズン最多の60本塁打の記録を打ち立てた、あのバレンティン。
10 ジュリクソン・プロファー(FA)
 昨季ダルビッシュの同僚だった元ショートのユーティリティ。10年以上前にテキサス・レンジャース傘下でエルビス・アンドルースに続くショートの超有望株だった。当時の期待値が高すぎたせいで期待外れ感があるが、30歳を過ぎてもメジャーに生き残った。
 今季はまだ所属先が決まっていない。
11 レイ=パトリック・ディダー(FA)
 スピードを武器に二遊間やセンターを守るアルバ出身のユーティリティ。
50 ロジャー・バーナディーナ(レオン/ニカラグア)
 メジャーフリークに地味に人気が高い元メジャーリーガー。2008年にワシントン・ナショナルズでメジャーデビュー、一時期外野のレギュラーを掴みかけ7年で548試合に出場した。
 2017~18年にはKBO(韓国プロ野球)の起亜タイガースと契約し2年で47本塁打・OPS.902の好成績を記録したが契約を見送られ、翌19年は台湾に移籍したがこちらでは活躍できなかった。現在はオランダリーグとニカラグアのチームでプレーしている。
 ちなみに台湾のラミゴと契約する前に石川ミリオンスターズ(BCリーグ)と一度契約合意したが来日しなかった。
77 ジョシュ・パラシオス(パイレーツ傘下AAA)
 リッチー・パラシオスの兄。弟ほど有望扱いされなかったが、こちらもスピードがウリで外野3ポジションを守れる。
【監督・主なコーチ】
監督 ヘンスリー・ミューレン
 4大会連続でWBCオランダ代表の監督を任された。メジャーでは活躍できなかったが、1990年代にロッテとヤクルトに所属し3年間で77本塁打を記録。1995年にはヤクルトの日本一にオマリーとともに貢献した。2003年から指導者の道を歩み続けている。
バート・ブライレブン
 メジャー通算287勝を挙げ野球殿堂入りしている元レジェンド投手。健康で22シーズンもプレーしたことやホームランが出やすい本拠地が長かったこと、縦カーブが武器でストライクゾーンの高めで勝負する配球が多かったことが重なり、単一シーズンワーストの+50被本塁打を記録した。
ジーン・キングセール
 アルバ島初の元メジャーリーガー。長く国際大会のオランダ代表選手として活躍し、2006・09年のWBCに出場した。
アンドリュー・ジョーンズ
 楽天イーグルスにも所属した殿堂入りの可能性がある元大物メジャーリーガー。メジャー通算434本塁打・1289打点・中堅手として10度のゴールドグラブ受賞・オールスター5度選出の輝かしいキャリアを積んだ。引退後はオランダ代表チームのコーチを務めている。
 また、昨季のドラフトで息子のドリュー・ジョーンズが全体2位指名を受けた。
【参加できなかった有力選手】
ケンリー・ジャンセン(ボストン・レッドソックス)
 準決勝から参加すると報じられている、メジャーを代表するベテランクローザー。WBC第2回大会でキャッチャーで出場後、ピッチャーに転向して瞬く間にクローザーにまで登り詰めた。
 ここ何年かは勤続疲労を懸念されながらも一線級に踏みとどまっている。今季はレッドソックスで投げる。
ジェア・ジャージェンス
 プレイヤーとしての最終局面を迎えている元メジャーリーガー。主にアトランタ・ブレーブスの先発投手として投げ、2桁勝利を3度挙げた。
 WBC開幕時点で37歳、現在はベネズエラでプレーしている。
オジー・オルビーズ
 小柄な体に似合わない長打力を持つブレーブスの正二塁手。昨季負ったけがのため不出場。

by【MLB名鑑.com専属コラムニスト】デッドボーラー